グリンデルワルトにて 映画「神様、なぜ愛にも国境があるの?」 ホテル・ベラリー(2)

客間に通して頂いて、長い時間、中島さんとお話をしました。
日本に帰国してから知ったのですが、中島さんは、グリンデルワルト在住の先駆けとなった人だという事でした。

「スイスへは何しに来たの?」

「観光です。 明日サンモリッツに移動するんですけど、グリンデルワルトに来て、映画の舞台がこのホテルだと聞いたものですから」

「映画も全部本当ではないし、だいぶ脚色されたところも・・本当のところもあるし」

「国土は国の物で、家は全部、木造だと聞いたんですけど・・スイスは観光の国なので、景観を壊してしまうので、これ以上建てるのも難しくなっていて、建てるのも木造でないと建てられないと聞きました」

「国土が国の物? そんな事はないよ、国民の物だよ。 山の上の方はそうかもしれないけど・・誰に聞いたの?」

「現地の日本人です。今は住むのも難しくなってるって聞きました」

「そんな事はないよ、ちゃんと住めますよ。 ただしちゃんと手続きや手順は踏まないと駄目だけど・・それに家は全部木造ではないよ。 

観光の国だから表面は木造に見せてるけど、中は鉄筋コンクリートの家もありますよ。 外観だけを木造にするんですよ。

家を建てるのも出来なくはないけど、借りて住んだ方が早いでしょう? うちも貸してるよ。
山の上の方で、家だけ貸してくれればいいからって、毎年夏の間だけ住んでる人いますよ。
現地の日本人もスイスを分かってないなぁ、長く住んでるのに・・」

「中島さんのように40年も住んでる方と違うんじゃないでしょうか? あのピアノはどなたか弾かれるんですか?」

「ここに来た時、家内が弾いていたんだよ」

「スイスに住むようになったきっかけって何だったんですか?」

「まあ、居候だよ。 みんな40年も住んでるのにまだ国籍取らないの?なんて言うんだけど、国籍なんか取ったってしょうがないだろ? 住めればいい訳だから」

映画の話、チーズフォンデュの話、山の事、スイスに来て中島さんの別荘に住んでいる方の事、国民皆兵の事、スイスの事、息子さんの事、そのほか色々な話を聞かせて頂きました。

「まあ、私が生きている間にまた遊びに来てよ」

「そうしたいんですけど、必ず来れるかどうかは」

「いやいや、約束じゃないから、来れたらですよ。 機会があれば、そういう事があればです」

客間はサロンで、窓からは眩しいほどの光が差し込んでいました。

ホテル・ベラリーは、100年以上の歴史があり、1984年に改装したとの事です。
1902年には、ドイツの作家、ヘルマン・ヘッセも宿泊したとの事です。