グリンデルワルトにて ホテル・ベルビューからホテル・ベラリーへ

ホテル・ベルビューは真ん中に入口があり、1階がレストランで、2階と3階がホテルのようでした。
ホテルの右には、車を置くスペースがありました。

中に入ると正面にカウンターがありました。

店内には数人のお客がおり、食事を終えて中を見回すと、壁に写真が飾られていました。
昔のホテル・ベルビューの写真でした。
ベルビュー全体の写真、ベルビューの前で撮った集合写真、中のカウンターで撮った集合写真、山を背景にピッケルを持った人達の写真もありましたので、登山中かアルペンガイドの写真でしょうか?

その中に、エミール・シュトイリ氏の写真もありました。

やはり昔の写真と比べると、だいぶお店の雰囲気が違いました。

ですがここが、エミール・シュトイリ氏の経営していたホテル・ベルビューであり、作家、新田次郎の「アルプスの谷 アルプスの村」に出て来たホテル・ベルビューなのだと思いました。
新田次郎が訪れたホテル・ベルビューであり、作品の中で山岳ガイドのエミールシュトイリ氏との出会いや交流があったホテルなのです。

それから私はホテル・ベルビューを後にすると、今度はもう1つのホテルに向かいました。
今度はホテル・ベルビューとは全く逆方向のホテルです。
ホテルの名前は「ベラリー」です。

このホテルは映画「神様、なぜ愛にも国境があるの?」という映画の舞台となったホテルなのです。
日本人の男性とスイス人の女性の恋愛を描いた物語です。
日本人の写真家とスイスでホテルを経営する家に生まれた娘さんが、障害を乗り越えてやがて結ばれるという物語です。

私はホテル・ベルビューを出ると、反対側に向かって歩き、グリンデルワルト駅を過ぎて、さらに歩き続けました。
思ったよりも遠いので、途中「本当にこの道でいいのかな?」と思い、村の人を見掛けましたので、ホテルの場所を尋ねました。

「すみません、ホテル・ベラリーというのは、この方向でよろしいのでしょうか?」

その方は女性で、ちょうど車に乗ろうとしていたところのようでした。

「ホテル・ベラリー? ああ、良かったら私の車に乗って行って下さい。 送って行きますよ」

「あっ、いえ、そこまでして頂かなくても・・場所を教えて下さるだけでいいんですけど・・」

「いいから、いいから、乗って下さい。 ここからはとても長いの、歩いては大変ですよ」

私は申し訳ないと思いながらも、あんまり親切に勧めてくれるものですから、丁寧にお辞儀をして助手席に乗せて頂きました。

女性が車を走らせても私は、

「あの~ホテル・ベラリーには泊まる訳ではなくて、ただ見に行くだけなんです。 車にまで乗せて頂いては申し訳ないので・・」

「いいの、いいの、私もちょうど同じ方向へ出掛けるところだったから」

そういってホテル・ベラリーへ送って行ってくれました。
ホテル・ベラリーに着くと、女性は、指を指して、「ここがホテル・ベラリーよ」と言いました。

「お礼しないといけないと思うんですが・・」と私が言うと、「いいの、いいの、お礼なんて、気にしないで」

そう言って私を降ろすと、女性は手を振って去って行きました。